公開講演会「歴史の工房-英国で学んだこと」を開催しました

2月4日(土)、島根学習センター 3階 第1講義室において、公開講演会「歴史の工房-英国で学んだこと」を定員一杯の60名が参加して開催されました。講師の草光俊雄放送大学教授は今年度末で退任されますが島根との縁が深いことからこの地で最終講義の意味合いを込めて開かれました。草光教授は島根学習センターで面接授業を2回(平成18年2学期と平成24年2学期)「ヨーロッパの歴史と文化」などを実施されました。また、昨年12月には演題と同じ書名の単行書(みすず書房)を刊行されました(写真上)。

講演の大略は次の通りです。(敬称略)
講演の内容は、①イギリスとの出会い、②留学時代、③帰国してからの三つに大別できる。

イギリスは最近ではEUの離脱するなどヨーロッパの中ではちょっと変わった国にみられるが、海を隔てた島国である点は日本と似ている。そうした中で祖父草光信成の存在が大きかった。祖父は出雲で生まれ、松江で育った洋画家で装飾的メソッドの画風であったが、黒田清輝の推挙でフランスに留学し、現在の日展の前身である帝展で3回連続特選を受賞した。また柳宗悦など出西窯の人たちとも繋がりがあった。

子ども時代に読んでいた19世紀後半から20世紀前半のイギリスのファンタジーな児童文学、たとえば「煙突掃除の少年」は大変面白かった。イギリスの湖水地方の文学や作品「ピーターラビット」などもイギリスの自然文学の影響でイギリスへの憧れの気持ちがあった。また、1920年代にオックスフォード大学に留学し、イギリスの歴史が大きく変わったときを体験している西脇順三郎の詩集に触れた。

大学が終わりになった頃、2ヵ月のヨーロッパ旅行に出かけた。フランス、ドイツ、オーストリアの他、残りのほとんどはイギリスであった。この間に松村高夫にイギリス・イングランドの中部にあるシェフィールド大学のラファエル・サミュエルのセミナーに一緒に行かないかと誘われる。ここでは、これまでは貴族や政治家などのエリートの歴史であったが、そうではなくひとり一人の一般の人々が世の中を変える、歴史を書き換える、歴史に登場しなっかたのは女性、労働者も男性の労働者だけでなく、そういう人たちと一緒にやろうという議論がすごく熱気につつまれていた。まさにHistory Workshop (歴史の工房)である。講義も独特である。講義をノートにとり、コピーし、これをファイルにしておく。それぞれのテーマ別に分類しておく。次に講義すときはそのテーマのファイルを引き抜いておき、次の議論を進める。また新しいテーマのファイルができるという具合である。歴史家はこういう勉強をするのかということを学んだ。

高校時代には海外の留学先として、アメリカ、ドイツも考えたが、やはりイギリスで勉強しようと思い、結局、シェフィールド大学ラファエル・サミュエル教授に師事することにした。(写真下 背景の建物はシェフィールド大学学生寮)

19世紀の半ばに産業革命が起こった。しかし、たとえば芸術性版画を作っていた職人は産業の中では手作業で働く職人になった。やがて版画は木版から魚版で印刷され、さらに輪転機によって大量に印刷することが可能になり、分業も進んだ。そこで博士論文のテーマは「イギリスの産業とデザイン」を提案された。産業博覧会や意匠登録の問題もあったがまだ誰も研究していなかった。産業革命によって、イギリスの製品はデザイン的に劣ってきたのではないか?盗作が増えたのではないか?-産業が発達することで生じた産業と技術と意匠の関係性をアーツ・アンド・クラフト運動のウイリアム・モリスやジョン・ラスキーを例として議論した。

その後、3年間ケンブリッジ大学で中国の科学技術史を研究しているジョゼフ・ニーダムの研究所に勤めた。

講演の随所で、イギリスの大学事情、留学生活(生のオペラやシェイクスピアなどの芝居の鑑賞と魅力)、放送大学の卒業研究(少なくとも文系の論文では、普通の学者の論文と同じようものではなく、自分の人生が出ていないと意味がない。皆さんの性格を反映させたものにして欲しい)、デザインと消費について等を述べられ、時間はアッという間に過ぎた。

現在、放送大学の授業ではヨーロッパの歴史の中で、18世紀以降の植物学的な見方ではなく、植物からみた人間の歴史の関係を講義している。「ヨーロッパの歴史II(’15)-植物からみるヨーロッパの歴史-」