2月9日(土)、島根学習センター 3階 第一講義室において、平成30年度卒業研究・修士論文発表会が公開講演会「動き出したTPPと日本農業」(講師 放送大学鳥取学習センター 小林 一所長)に続いて15時15分から開催されました。今年度は卒業研究2名、修士論文1名の3人の方々によって発表が行われました。当日は日本列島を襲った寒波によって松江も大変寒い日でしたが、会場では多数の参加者や客員教員の出席のもと、佐々学習センター所長の司会により進められました。
発表された皆様とテーマ、簡単な発表内容は次の通りです。
「女性のライフサイクルと労働について-学生の意識と行動から考える-」(社会と産業コース 田中さん)
標題と同種類のアンケート調査を島根県と全国に分けて分析した。その結果、現状と課題として、①女性の社会進出については法の整備は進んだが企業や国民全体の認識はまだ十分に広がっていない。②仕事と家庭の両立を支援する周囲の環境や意識が十分ではない。③女性が意欲的な生き方を選択できるできる状況ではないことを挙げた。
女性の労働の実態を考察すると、①女性の労働力率を年齢別にみてみると、35歳~39歳を底とするM字カーブを描いている。②島根県の女性就業者の就業形態の特徴は、正規の職員・従業員の割合が全年齢階層において高いことがあり、その要因として、世帯収入が低く働く必要があること、3世代同居が多く家族の支援が得られること、保育の整備が進み、児童の入所率も高いことがある。③島根県の子育てに関する意識は、30歳代女性の72.1%が、「子育ては、母親がしなければならない」と答えており、70歳代に次いで高い結果となっている。
また、就職先を選ぶ際に重視することについて、島根県内の大学生に対するアンケートの結果から、「育児休業・介護休業」は女子学生のうち23.2%、男子学生は5.3%が重視すると回答し、男子学生の関心の度合いは低い。
女性が能力活かしながら継続的に働き続けるためには、①結婚・出産・子育てと就労の調和、②仕事と子育ての両立のための周辺環境の整備、不安の解消、③早い時期に自分の将来設計を描く機会の提供が必要である。
島根県は女性の労働力率が高く、女性の活躍するライフスタイルを示すことができる地域であるので仕事と家庭が両立する施策を積極的に推進することを望みたい。
(この卒業論文は審査員優秀賞として選ばれました。)
「使用済み自動車と循環型社会形成の課題」(生活と福祉コース 高見さん)
持続可能な社会を求め、自動車を例として取り組まれた。最初に自動車の社会的費用論として、①道路という社会的共通資本、②道路の目的、③道路の建設と維持の費用等を挙げられた。
次に、資源としての自動車の社会問題として、豊島の不法投棄を例として取り上げられました。また、自動車の法制度(自動車リサイクル法、資源有効利用法等)の現状と問題点を述べられました。
最後に自動車を廃棄物としない解決策として、①OECDの拡大生産者責任(EPR)、②ドイツの容器包装システム、③スイスのペットボトルサイクル、④日本の自動車製品へのEPR適用、さらに、⑤これが一番重要であるが、レンタル社会の実現を挙げられた。自然界はレンタル社会、循環型社会を完璧に行っていることを指摘された。
「中学校社会科現代史学習における領土に関する教育についての実践研究-竹島問題の平和的解決に向けた対話に着目して-」(人間発達科学プログラム 大島さん)
現職の中学校社会科教員である発表者が領土に関する教育の実践研究を取り上げられました。まず、研究の背景として、竹島問題は日本と韓国との対話が進んでいない、解決の見通しも立っていないが、一方で日韓の若者同士が竹島問題をめぐって議論したり対話したりする場はあることから、日本の中学生が韓国の中学生と対話する際に、どのような対話を試みるのか、その対話の質を高めるための指導はどうあるべきかが問題意識としてあった。
そのため、研究の目的として、①韓国の中学生との対話場面を想定した調査を行い、どのような対話をしようとするのかを分析し、その特色について明らかにする。②対話の質を高めるため事前の調査結果との比較分析を行い、どのように変容したか明らかにする。③このことから今後の授業開発への知見を得る。また、研究の構成として①基盤研究(近現代史学習の教材開発、領土に関する教育の指導の方向性)、②実践研究(竹島問題の平和的な解決に向けた対話に着目)の2つを取り組んだ。
授業で扱う際の指導の方向性として、①日本が正当に主張する立場に基づき、韓国の主張を並列的に扱わない。②日本の主張を絶対視せず、日韓の主張を並列的に扱うの2つがある。そのために韓国との友好関係にも目を向けながら、平和的な解決に向けた韓国の人々との対話の可能性について粘り強く考えていける子供を育てる指導が重要であった。実践教育では政府間での対話が進んでいない状況だからこそ、子供たちに対話への心構えを持たせることが大切であった。
そのために、事前調査を行ったが、日本の主張の正当性を前提とした主張は9割近くで、前提としないと思われる記述は8.4%に留まった。自分の考えを一方的に主張するだけでは対話にならないが、授業中には平和的な解決に向けたキーワードとなる単語を使う生徒がしだいに増え、韓国の主張を踏まえて何らかの提案しようと考える生徒が増えた。
戦後の日韓交渉をを題材にした学習、対話の目的や視点を示して具体的な対話を考える学習を行ったことにより、相互理解や話し合いを重視して、対話を通した平和的な解決に向かう記述が増えるなど、対話の質を高める上で一定の成果がみられた。
この実践研究から得られた今後の授業づくりのため、①韓国の主張の理解のための近現代史学習の重要性、②平和的な解決に向けた対話を考える学習の有効性、③領土問題の学習を社会科において扱う可能性が示唆された。
各発表が終了すると会場からの質問、客員教員の講評などの活発な討論が行われ、最後に発表者のご努力とご苦労に対して大きな拍手で讃えました。