令和1年度修士論文発表会を開催しました

2月9日(日)、島根学習センター 3階 第一講義室において、令和1年度卒業研究・修士論文発表会が市民公開講座「地球温暖化と気象災害」(講師 放送大学島根学習センター 田坂郁夫所長)に続いて15時15分から開催されました。今年度は修士論文が2名の方により発表が行われました。当日は珍しく好天に恵まれ、会場では多数の参加者や客員教員の出席のもと、田坂郁夫学習センター所長の司会により進められました。
発表された方のテーマ、簡単な発表内容は次の通りです。

「就労型継続支援B型事業所の作業療法士の関わり~3事例から見るアセスメントによる要因の特定~」
生活健康科学プログラム  金弦さん

 ◇就労支援分野で働く作業療法士の役割を質的調査にて調査することで、作業療法士のアセスメントが対象者に必要な要因の特定を高め、QOL向上に役立っていることを明らかにすることが目的である。
問題意識として①障害者就労支援で実施されるアセスメントが本当に就労に特化した内容であるかどうかという点と、②障害者の障害を専門的にアセスメントする職種の役割が曖昧である点である。
◇このため日本作業療法士協会が作業療法を「見える化」し、多職種にも分かりやすく説明するためにMTDLP(生活行為向上アセスメント)を開発したが、明らかになったことは次の2点である。
①作業療法士が対象者にアセスメントする際、身体機能面に限定されず、背景因子として対象の個人因子を評価し、対象者にとって重要度の高い作業を遂行する上で必要な要因の特定を実施している点である。②医療専門職には病気を診るだけになく、予後予測の観点が必要である点である。作業療法のMTDLPには、教育プロセスとして予後予測の実施が明確化されている。
◇本稿の仮説
・仮説ー「障害者就労支援において、対象者のQOLを高めるために、就労継続支援B型事業所の作業療法士はMTDLPの視点でアセスメントをしているか」である。
・仮説の問いに対する仮の答えー「就労継続支援B型事業所の作業療法士は、MTDLPの視点でアセスメントの視点による要因の特定を高めているために、対象者への介入を段階づけて実施することが最もQOLの質を高める」と設定する。
◇本研究では次の方法で就労継続支援B型事業所での作業療法士の関わりを調査した。
1)対象者:作業療法士3名  2)調査機関:2019年7月~10月 3)調査方法:インタビューによる半構造化面接(1名に対し約60分間) 4)調査場所:各作業療法士が勤務する事業所を訪問
◇その結果
①3名の作業療法士はMPDLPの視点でアセスメントし対象者に必要な要因の特定を高めていた点が無意識に行われていた点が明らかになった。②MTDLPの視点で対象者に必要な要因を高めるアセスメントのプロセスにおいて、対象者が疾患の特性を理解し、課題を自ら発見し解決できる能力を獲得できるよう支援を実施していた。③作業療法士の関わり方として対象者を主に関わる考え方ではなく、対象者が生活する地域のニーズをアセスメントすることから対象者を支援が有効であることが明らかになった。
◇おわりに
・今回の研究で就労支援に対する作業療法士の関わりは対象者のQOLを向上させるために有効なプロセスを踏んでいることから、就労継続支援B型事業で作業療法士の役割が発揮されることが明らかとなった。
・今後の課題としては、就労支援現場で働く作業療法士が、支援実態を活発に報告していくことが必要である。報告があがることで作業療法士の役割が多職種に伝わり、就労を支援する作業療法士の活躍の場も広がると考えられる。

「作家 赤江行夫論-《占領》の文学-」
人文学プログラム 永見さん

一 作家赤江行夫とは
福島郁穂(いくお)=赤江行夫
1918年(大正7)10月19日~1990年(平成2)12月22日 行年72
能義郡赤江村今津に生誕 (安来)
父、福島亮と母、年能の長男
赤江村立今津尋常小学校卒
島根県立松江中学校卒
神戸高等高等工業学校建築科卒
工場建設技師、数学・建築史及教師を経て、戦後に特別調達庁に勤務
◇賞歴・候補歴
候補 第35回直木賞 1956年(昭和31上期)
候補 第36回直木賞 同年(昭和31下期)
週刊小説創刊記念賞金1千万円懸賞小説佳作 (昭和48)他多数
◇参考
特別調達庁・連合国の需要する建造物及び設備の営繕並びに物及び役務の調達
退職後は茨城県土浦市鳥山町に住む
墓所 つくば市泊崎町 牛久沼聖地公苑 福島郁穂大人命

二 赤江行夫の著作
著作分類  編数       備考
小説    45編 内著書 『長官』『不発弾』『ほらふき伝次』
追悼文    6編 「鼠の糞」長谷川伸への追悼文が最初、他に新鷹会への諸先輩のもの
随想    17編 「椿おつや」への追悼文と言えるものであるが、随想としたその他    2編 ルポ・短文
中学時代著作 3編 「社日桜の話」「大山寺」「快勝記(庭球部)」
建築関係著作 2編 「日本建築史」「宮古島農家による日本原始家屋への一考察」
未発表著作 21編 近代日本文学館所蔵
計     98編

三 赤江行夫の作家人生(四期に分ける)
著作(区分)   小説   追悼文    随想    その他
・始動期      7編
(29歳~35歳)
・成長期     14編   1編          1編
(36歳~45歳)    (内 著書3冊)
・帰伏期
(46歳~51歳)             1編    1編
(46歳~57歳)        2編   1編    5編
・成熟期
(52歳~72歳)           24編   6編   16編    1編
(58歳~72歳)        22編   6編   12編    1編

計          45編   8編   17編    2編

四 赤江行夫の代表作
1「ザ・リマウ(350枚)」1961年(昭和36)
2「通訳の勲章(500枚)」1972年(昭和47)
『週刊小説』創刊記念懸賞小説佳作 1973年10月
3 改訂「通訳の勲章(410枚)」の草稿 1974年(昭和49)
4「虎が来る(348枚)」1985年(昭和60)
第八回放送文学賞佳作1986年3月
5「虎(299枚)」1990年(平成3)
これらは、現在確認されているもののみで執筆期間は凡そ30年間である。この長期間の改訂については、赤江の場合は小説のタイトルを変えて書き続けた。
68年にノーベル賞を受賞した川端康成の『雪国』は同じタイトルで36年間にわたって改訂をつづけている。作家にとって最も思い入れのある著作は存在するということなのだろう。それを、代表著作とここでは考えたい。

五 赤江行夫は何を表現したか
赤江行夫は、福田清人の指導のもと純文学から始めた。そのため、『大衆文芸』に掲載されていたのは多くのが中間小説であったと思う。現在は、文学区分が判然としない状況ではないかと思っている。少なとも作家が何を表現しようとしたのかが大切になってくる。

赤江行夫は何を表現したか?
●幻想文学と称する一群(7編
幻想文学は赤江の旧制中学時代、そして赤江の作家としての成長期から成熟期にも記される。赤江の幻想文学は少年時代から赤江自身の人間性の維持のためのもので、誰にも迷惑をかけない、邪魔されない自由空間であったのではないかと思う。●《占領》の文学と称する一群(15編)
西沢正太郎や真鍋元之が「手に負えない大きな課題」「社会派らしい壮大なテーマ」と表現したものと重なるもの。(赤江の仲間内の評価)
「ここでは、ある特定の場所がある人(或いは物)によって占められ、支配される。占領もあり、そうでない「占領」もある。そんな状況の中での人々の反発、適応、迎合及び直視する行為を描いた文学」とする。

それぞれの発表の後、司会の学習センター所長、客員教員から講評があった。最後にひと際大きな拍手で発表者を讃えた。