月別アーカイブ: 2017年2月

平成28年度「修士論文発表会」が開催されました

2月4日(土)、「平成28年度修士論文発表会」が公開講演会に続いて開催されました。今年度は卒業研究の該当者はなく、次のお二人による修士論文の発表がおこなわれました。多くの方が参加され活発な議論が行われました。
発表者と発表内容は次の通りです。

・金山 朝子さん(修士・人間発達科学プログラム)
研究テーマ:小学校道徳内容項目「礼儀」について~主として「礼儀」資料の分析から~
家庭で行う「礼儀」が社会的背景から学校教育の中で期待されているが、道徳内容項目「礼儀」がどのように扱われているか、教材の分析をもとに研究した。まず、学習指導要領における項目内容を明確にした後、次の道徳教材を個人道徳と社会道徳の視点から分析した。①文部科学省「心のノート」とそれを改訂した「私たちの道徳」、②8社48冊の教材会社出版の教材、③地域や偉人の文化に係わる資料が多い自治体出版の教材。分析結果から、礼儀の意味を児童とともに考えられる資料が期待されるが、教科化にともない慎重な資料の選択が必要になる。個人道徳の向上が社会道徳の向上と連動し、相互に作用しあっているので、中学校への円滑な接続のため、中・高学年資料の検討の必要性や指導のあり方の実践研究が大切である。

・岡田 真さん(修士・自然環境プログラム)
研究テーマ:自転車競技におけるペダリングの数学モデル
非常にユニークなテーマが選択された。自転車競技にはロード競技(一般道、長距離)とトラック競技(競技場、短距離)がある。16年間競技を続け、4年間指導した中で疑問を感じたことは、①同じ体格での速さの違い、②選手それぞれのペダリングの違い、③最適な乗車ポジションである。①と②についてはペダリングスキルの違いがあると考え、ペダリングの動きを分析し、自転車ペダリングのモデル化を試み、円運動をスムーズに行うには、各円周上の点で、円の接線方向に力を加える必要があったが、関節トルクを運動方程式を用いて求めることができる。③については定点において力が最大になるサイドポジションを、ムーアペンロース逆行列を用いて求めることができる。大腿、下腿の長さもサドルポジションに影響する。

発表後、非常に活発な質疑応答が交わされました。これらの研究がさらに進展することを期待したいと思います。

公開講演会「歴史の工房-英国で学んだこと」を開催しました

2月4日(土)、島根学習センター 3階 第1講義室において、公開講演会「歴史の工房-英国で学んだこと」を定員一杯の60名が参加して開催されました。講師の草光俊雄放送大学教授は今年度末で退任されますが島根との縁が深いことからこの地で最終講義の意味合いを込めて開かれました。草光教授は島根学習センターで面接授業を2回(平成18年2学期と平成24年2学期)「ヨーロッパの歴史と文化」などを実施されました。また、昨年12月には演題と同じ書名の単行書(みすず書房)を刊行されました(写真上)。

講演の大略は次の通りです。(敬称略)
講演の内容は、①イギリスとの出会い、②留学時代、③帰国してからの三つに大別できる。

イギリスは最近ではEUの離脱するなどヨーロッパの中ではちょっと変わった国にみられるが、海を隔てた島国である点は日本と似ている。そうした中で祖父草光信成の存在が大きかった。祖父は出雲で生まれ、松江で育った洋画家で装飾的メソッドの画風であったが、黒田清輝の推挙でフランスに留学し、現在の日展の前身である帝展で3回連続特選を受賞した。また柳宗悦など出西窯の人たちとも繋がりがあった。

子ども時代に読んでいた19世紀後半から20世紀前半のイギリスのファンタジーな児童文学、たとえば「煙突掃除の少年」は大変面白かった。イギリスの湖水地方の文学や作品「ピーターラビット」などもイギリスの自然文学の影響でイギリスへの憧れの気持ちがあった。また、1920年代にオックスフォード大学に留学し、イギリスの歴史が大きく変わったときを体験している西脇順三郎の詩集に触れた。

大学が終わりになった頃、2ヵ月のヨーロッパ旅行に出かけた。フランス、ドイツ、オーストリアの他、残りのほとんどはイギリスであった。この間に松村高夫にイギリス・イングランドの中部にあるシェフィールド大学のラファエル・サミュエルのセミナーに一緒に行かないかと誘われる。ここでは、これまでは貴族や政治家などのエリートの歴史であったが、そうではなくひとり一人の一般の人々が世の中を変える、歴史を書き換える、歴史に登場しなっかたのは女性、労働者も男性の労働者だけでなく、そういう人たちと一緒にやろうという議論がすごく熱気につつまれていた。まさにHistory Workshop (歴史の工房)である。講義も独特である。講義をノートにとり、コピーし、これをファイルにしておく。それぞれのテーマ別に分類しておく。次に講義すときはそのテーマのファイルを引き抜いておき、次の議論を進める。また新しいテーマのファイルができるという具合である。歴史家はこういう勉強をするのかということを学んだ。

高校時代には海外の留学先として、アメリカ、ドイツも考えたが、やはりイギリスで勉強しようと思い、結局、シェフィールド大学ラファエル・サミュエル教授に師事することにした。(写真下 背景の建物はシェフィールド大学学生寮)

19世紀の半ばに産業革命が起こった。しかし、たとえば芸術性版画を作っていた職人は産業の中では手作業で働く職人になった。やがて版画は木版から魚版で印刷され、さらに輪転機によって大量に印刷することが可能になり、分業も進んだ。そこで博士論文のテーマは「イギリスの産業とデザイン」を提案された。産業博覧会や意匠登録の問題もあったがまだ誰も研究していなかった。産業革命によって、イギリスの製品はデザイン的に劣ってきたのではないか?盗作が増えたのではないか?-産業が発達することで生じた産業と技術と意匠の関係性をアーツ・アンド・クラフト運動のウイリアム・モリスやジョン・ラスキーを例として議論した。

その後、3年間ケンブリッジ大学で中国の科学技術史を研究しているジョゼフ・ニーダムの研究所に勤めた。

講演の随所で、イギリスの大学事情、留学生活(生のオペラやシェイクスピアなどの芝居の鑑賞と魅力)、放送大学の卒業研究(少なくとも文系の論文では、普通の学者の論文と同じようものではなく、自分の人生が出ていないと意味がない。皆さんの性格を反映させたものにして欲しい)、デザインと消費について等を述べられ、時間はアッという間に過ぎた。

現在、放送大学の授業ではヨーロッパの歴史の中で、18世紀以降の植物学的な見方ではなく、植物からみた人間の歴史の関係を講義している。「ヨーロッパの歴史II(’15)-植物からみるヨーロッパの歴史-」